1社提供の保険としては単一で最大規模か
ロンドンに拠点を置く保険企業のアーチ・インシュアランス・インターナショナル(Arch Insurance International)が、シカゴ拠点の暗号資産(仮想通貨)保険企業のエバータス(Evertas)に対し、カストディアンや取引所に対する単一保険契約の補償限度額を4億2000万ドル(約672.5億円)に引き上げることを許可した。なおエバータスはアーチの代理として、暗号資産に関する保険を発行する権限を得ている企業だ(下記に詳細記載)。
この動きは、破綻した暗号資産取引所のFTXによってダメージを受けた暗号資産業界にとって大きな後押しとなり、業界を悩ませているハッキングや盗難に対する懸念を和らげることに一役買いそうだ。
なおエバータスによれば、現在保険で保護されている世界の暗号資産は全体の2~3%に過ぎないという。
このように暗号資産に関する保険加入数が少ない状況のため、業界は危険な状態にさらされ、イノベーションが阻害されているとエバータスは指摘している。
同社CEOのJ. グダンスキ(J. Gdanski)氏は、「この劇的な補償限度額の増加は、暗号資産空間が成熟し、正しい方向に向かっていることをまぎれもなく示すものだ」と述べている。
またグダンスキ氏はロイターに対し「これは1つの保険会社から承認される単一で最大の保険である」と語り、「その他多くのプレスリリースにかかれている、5億ドルや、10億ドルなどと書かれているものは、実際には複数の保険会社が契約を結ぶ必要があるプログラムだ」と指摘した。
なお4億2000万ドルの保険は、カストディアンが保有する秘密鍵(取引の承認や所有権の証明に使われるコード)の盗難に関わる犯罪関連の保険に適用される。
ちなみにエバータスの従来の単一保険限度額は、500万ドル(約7億円)であった。
カストディアンの例としては、コインベース(Coinbase Exchange)やバイナンス(Binance)が挙げられている。
エバータスについて
エバータスは、世界的な保険市場ロイズ・オブ・ロンドン(Lloyd’s of London [SOLYD.UL])から、保険契約締結の権限を委譲された企業である「カバーホルダー」だ。国際的な保険会社が暗号資産などの複雑なリスクを評価または引き受けるために信頼する専門技術または地域の知識を持っている。なお同社は昨年2月、ロイズ・オブ・ロンドンに参加した。
カバーホルダーとなったことにより、エバータスは、ロイズのシンジケートメンバー(大規模なリスクに対する補償を提供するために結束する保険事業体のグループの一部)の1つであるアーチ社(Arch)の代理として、暗号資産に関する保険を発行する権限を得ている。
アーチキャピタルグループ(Arch Capital Group)の傘下であるアーチ社(Arch)は、この記事に関するコメントを拒否している。
マイニングハードウェアに関する保険提供も
またエバータスのグダンスキCEOによれば、アーチ社はエバータスに対し、最大2億ドルのマイニングハードウェアに対する保険を提供することも許可しているとのことで、これはマイニングハードウェアに関する単一保険としては最大の補償額であるという。なおこの保険は、マイナーが火災や洪水、その他の自然現象による被害からマイニングマシンを守るために使用する財産保険とのことだ。
これについてグダンスキ氏は、「特にマイニング事業では、多くの機器を備えた非常に大きな施設を持つ傾向があるため、2億ドルのプログラムを持つことは、実際のところ非常に重要なこと。この大きなサイズの保険によって、より大きな保護が可能になる」とコメントしている。
暗号資産業界に高い市場価値を感じる保険業界
ブロックチェーン分析会社TRMラボ(TRM Labs)のレポートによれば、最新のデータでは、盗難やハッキングによる暗号資産の損失は、今年第1四半期で4億ドルに達しているという。この数字は2022年の約37億ドルの暗号資産損失額に次ぐものだ。
グダンスキ氏は、今後ユーザーとなり得るすべての人々に対し、「非常に保守的な事業体である保険業界が、暗号資産業界を保険でサポートするのにふさわしいと考えられる程度の、ビジネスと十分な需要がある」と語りかけている